AIで生産性が上がっても、利益が増えるとは限らない

概要

  • 生産性は、利益化の出口を作るわけではない
  • 利益化経路がない生産性は、売上ではなくコスト発生能力になりかねない
  • AIで何が合理化されるかではなく、その合理化されたものがどこで利益になるのかを検証する必要がある

AIで生産性は間違いなく上がった

AIが使えるようになり、個人で扱える作業の範囲や出力という意味での生産性は、間違いなく上がったと言えるでしょう。

情報収集、文章作成、レビュー、プログラミング、資料作成、画像生成、専門領域への初期アクセスなど、私たちはかなりの能力を簡単にAIに委託できるようになりました。

特に大きな変化は、自然言語でAIに指示すれば、これまで専門性やプログラミング技能が求められていた情報や処理に、簡単にアクセスできるようになったことです。これによって機械語や専門領域への翻訳などが一部不要になり、できることの範囲が一気に広がりました。

パターンを整理して自然言語で書き下せることであれば、多くのことが自動化できます。

一方で、利益は増えたか

生産性と利益の関係については、同じような構造が過去のテクノロジー投資やDXでも繰り返し現れています。

新しい技術によって業務効率や処理能力は上がる。しかし、それが常に利益として回収されるわけではない。DXの観測においても、固定費化したコスト、ROI未達、クラウド費用の増大などが、すでに多くの企業で問題になっています。

AIについても、導入の便益は大きい一方で、その影響が利益や生産性統計に現れていないという議論があります(ソローのパラドクス)。遅れて影響が出るはずだという見方もありますが、少なくとも「技術を入れれば利益が増える」とは考えない方が安全です。

個々のプロジェクトを平均に当てはめるべきではないにしろ、これらは無視できない傾向です。少なくともどんなアンチパターンを避けるべきかについて考えておくことは、リスク管理として必要だと考えます。

利益化の出口は変化していない

ここで重要なのは、生産性が利益につながるという仮説がそもそも正しいのか、という問いではないでしょうか。

少し考えてみると、この仮説はかなり直線的です。「作れば売れる、仕事をすれば売れる、新しい能力は買われる」という前提を強く持っています。さもなくば、生産性はどれだけそれを高めても利益になりません。

実際には、生産性を利益にする「利益化の出口」には、以前から変化がありません。

  • 多く売る
  • 高く売る
  • 安く運営する
  • 新しい便益を買ってもらう
  • 余った生産性を、別事業の拡大・新規事業・労務コスト削減などの成功を通じて利益に変える

細分化すると色々と出てくるとは思うのですが、最終的にはかなりシンプルです。売上・価格・コスト・新規便益のどれかの出口に辿り着く必要があります。余剰生産性を再投資する場合でも同じで、再投資しただけでは利益にはなりません。

これらの出口がこれまでよりも広がらないなら、従来より高い生産性が生み出す成果物が利益に変換されず、最悪の場合では渋滞しかねません。

生産性=利益は「条件付きで成り立つ」

そのため、生産性を利益に変えるには、次のような前提条件が必要です。

  • 利益化経路があること
  • 生産性を受け止めるだけの需要があること
  • 生産性を受け止めるだけの消費能力があること

例えば、AIを使った新しい技法で、緻密で整ったイラストを大量に作れるようになったとします。これをどこに売ればよいでしょうか。

すでに売る窓口があり供給が不足しているとか、自分のポジションと新しい販路に心当たりがあり、「生産性がボトルネックだった」のであれば、AIなどを駆使して生産性を高めることで急速に利益が出るはずです。

しかし、売る先に心当たりがないのであれば、実際に高品質で、高生産性で、それがすばらしい技能とプロダクトであることには間違いがなくても、利益にするのは難しいことになります。

一方で、画像を作る際にはGPUコストがかかるし、大量の画像を保存したり管理するのにもコストがかかり続けます。これを収益が上回らなければ、生産性では利益が出ません。

これは、生産性の利益化が、自分の環境ではどの程度まで持続可能なのかという問いにもつながっています。需要が満たされ、売る先が詰まっている間は、ツール費用と成果物の保管・管理費用が増えるだけであり、高い生産性を維持しても利益になりません。

結論

これらのことを踏まえて、生産性向上を狙ったテクノロジー投資では、まず以下を念頭に置くのが良いと考えています。

  1. ROIの期待値を上げるには、利益化経路に増大の余地が必要
  2. その生産性に期待しているのは、利益か、便益か

まず見るべきなのは、その生産性がどの利益化の出口に接続するのかです。利益化経路と生産性との関係が、利益が増えるかどうかを分けます。

もう一つは、その投資に期待しているものが利益なのか、便益なのかを分けることです。便益を目的にする投資では、許容可能なコストと期待する便益のバランスを考慮し、ROIではなくコストで管理する必要があります。

生産性は、利益化の出口があって初めて利益になります。利益化経路がない生産性は、売上ではなくコスト発生能力になりかねません。AIで何が合理化されるかではなく、その合理化されたものがどこでどの利益になるのかを必ず確認してから、まとまった投資や定常コストの選択に踏み込む。それだけでも、かなり多くのAI投資の見え方が変わるはずです。

関連する論点

この話には、まだいくつか続きがあります。たとえば、利益と便益をどう分けて管理するか、先行優位を取ったあと累積コストをどう扱うか、スケールアップのために外部生産性を借りる戦略をどう設計するか、生産性とは別の利益化のパターンは何か、などです。これらは別の記事で整理する予定です。